「モノ」 と 「コト」 の 「欲求・満足」 の関係
<<「モノ」と「コト」と「欲求・満足」の関係>>
<はじめに>
さて、今日は「物事」「モノ」と「コト」について考えてみたい。
「モノ」から「コト」の社会に変化した。ということがよく言われる。正確に言えば「モノ」を重視する社会から「コト」を重視する社会に変化しているというべきであろう。
<1:iPadと社長>
先日、会議した時に、「社長がipadを使いだしたら、それが役員に普及し、役員が使いだしたらいつの間にか全社員にiPadが支給されている状況になったという企業があるよ」ということであった。
ボトムアップでIT部からタブレット=「モノ」機器を導入しようと提案しても、「効果は何か? 売り上げはいくら上がるのか?、利益は出るのか? 経費が削減されるのか? 何のメリットがあるのか?」など経営陣から思う存分質問を浴びせられるであろう。
しかし、社長が自分で使ってみた会社は、鶴の一声で「これはいい!みんな使え!」となる。TOPダウンで企業内に浸透した 唯一の「モノ」=IT機器と言えなくもない。
ICTについて無関心であった年寄り社長が「アプリケーションを入れたい」、 「WiFiが繋がらない」、「地図が正しくない」「GPSってなんだ」など、突然、若者と同じような質問やコメントを言い出す。素晴らしい一面である。
なぜ、社長にiPadが 過去にないほど受けたのか!? それは、社長が「モノ」=IT機器であるiPadを欲しかったのではないのである。「いままでなんとなくやりたかった「コト」ができるんだ」と知ってしまったからである。(やりたかったこと=課題がわかってなかったのも、それはそれで問題だが!?)
やりたかった「コト」。満足を得るとは、どういうことなのか考えてみたい。本稿では、企業活動ではなく話を簡単にするために 生活者の視点で分析する。
欲求レベルの説明をわかりやすく明示するために、マトリクス図の右側に、「マズローの5段階説」の図を挿入した。
マズローの5段階説の説明に関して要約を一応述べる(Wiki参照)。(ご存知とは思うが)
ところで、マズローに反論するわけではないが、今までより「安全」の前提ハードルが高くなったと言えるような気がする。震災後の社会、中国食品問題、あるいはインターネットセキュリティ社会で強く意識され始めたのは、安全という欲求である。「安全でなければ(放射能リスクがあれば)のどの渇き(欲求)は我慢する」ということである。
<3:四象限のマトリクス図>
「モノ」から「コト」(縦軸)/提供・供給 と 欲求・満足(横軸) の関係。
図1の4象限のマトリクス図を、もう一度、見てもらいたい。
縦軸(垂直軸)には、左下(第三象限の提供側)に「モノ」、左上(第二象限の提供側)に「コト」、すなわち、下に「モノ」、上に「コト」大別して記述している。
「モノ」とは実体的存在である。基本的にその物体や存在そのものは議論の余地がない。そこにある存在である。一方、「コト」は、時間の経過とともに実施される行為・体験である。
横軸(水平軸)に「提供・供給される内容」VS「満たされる欲求(満足)」を左右対比して掲載している。
そして、右側(第四象限と第一象限)の欲求・満足欄に、マズローの5段階に合わせて、生活者が、満たしたい欲求を簡単に列挙してみた。
<4:欲求満足のリストアップ と 提供・供給の内容>
右側の象限に、マズローの欲求を、下から順番で並べてゆくと、a:空腹を満たす、b:眠りたい、、、から n:良い人生を送りたい。まで、例示的にイメージできる。
それに合わせて、「欲求を解決するであろう提供サービス・供給商品」について考えてみると、1:食品、2:寝具住居、、、、、14:教育・医療、介護サービスと並べてゆくことができる。
その結果、左下に「モノ」である生活必需品、左上が「コト」である体験サービスや課題解決サービスである生活価値サービスということになる。
生活必需品(モノ)にたいしては、贅沢品(モノ)というのが普通の対義語かもしれない。しかし、長年デフレに慣れ親しんできた状況や商品があふれるほどの経済社会では、消費者も賢くなり、「贅沢である「モノ」」に金を払う人はいなくなった。
代わりに、何かの価値(優越感→満足感→充足感)をうむ「コト」サービスにたいして、お金を払う意識が強くなったと言える。
<5:提供・供給の内容 と 欲求満足 の関係式>
【1:1の生活必需品 図:赤色矢印参照】
カップヌードルを買うのは、物理的に乾麺や袋入り具やカップケースを欲しいわけではない。お腹を満たしたい欲求を解消したいのである。(カップケースを工作に使いたいとか日清食品の競合会社がサンプル買するとかは別問題として)
同様に、ポカリスエットを買うのは、のどを潤したいからである。故に この手のCMでは、満足したという表情が大事である、商品のスペックは関係ない。
そして、このように生活必需品のレベルでは、商材から見て満足の訴求点が基本的に1点集中である。
カップヌードルもポカリも、それぞれ「空腹を満たす」、「渇きを潤す」が明確な欲求への回答である。モノ:欲求=1:1の関係性である。
ところが、市場における問題は、空腹を満たすも渇きを潤すも、欲求から見たら、商品の競合代替品は山ほどあるということである。商品は多数あるが、お腹には一個で、 喉には一本で十分である。
競争に勝つために行うちょっと高級感をだす工夫が、成功したり失敗したりCPGの泣き笑いである。
いずれにしても、生理的欲求にたいする商品競争は激烈であり値下げ競争の要素が避けられない。(=今後もこの域ではデフレ要因を引っ張ることになろう)
【 1:n 「モノ」iPad=機器が体験を誘発する仕組み 図:青色矢印参照】
iPadは、「モノ」でありながら、家族とも楽しめるし、写真も共有できる、地図で仮想ドライブで事前シミュレーションもできる、もちろん業務でグラフも見れる、ゲーム、音楽、新聞などいくらでも「何々したい」欲求を可能にして満足を与えることができるのである。
実は満足の訴求ポイントをいくつも持っているから、欲しい「モノ」が分らない社長でも使っているうちにこれが欲しかったのだと意識できたのである。「モノ」=機器 が 「コト」=体験 の楽しさや必要性を気づかせてくれる商品なのである。
パソコンも同じような「モノ」であるが、感覚的な操作性や携帯性において圧倒的にタブレットが優位であったので、満足の訴求点が広いのである。さらに、「モノ」の例として電気ドリルを挙げると、穴をあける「コト」ができる以外には考えもつかない。(ついでに言うと、日曜大工のお父さんは穴をあけたいのであって、電気ドリルが欲しいのではない。電気ドリルが欲しいのは子供の方だ。この関係は、CEOとCIOの関係に似ている?)
もっとも、iPad(モノ)を機能させている経済、社会、技術の環境が整備されているから価値(満足)が生まれているのである。電気ドリル(モノ)を20年前に持っていったらとても先進的いい商品になるが、iPadを持っていったら下敷きぐらいの存在である。
今、市場に受け入れられている「モノ」はいくつもの「欲求」を満たす=1:Nの関係が現代社会のなかで作れているのである。それも満たしている満足レベルは 上位の社会的欲求や自我の欲求のレベルなのである。
生活付加価値品レベルの欲求にたいする訴求は、仕事環境や生活実感あるいは誇りや見えといった感情まで広がり、お金を払ってもいいという制限ラインをクリアしやすい。
【 1:n 「コト」TDLがもたらす満足感 体験提供の代表格 図:橙色矢印参照】
「コト」の例で一番わかりやすく広く言われているのは、東京ディズニーランド(TDL)での体験=スリルを味わう「コト」、家族でパレードをみる「コト」、キャラクターと写真をとる「コト」である。
もちろんTDLの施設そのものは 「モノ」であるが、売っているのは「モノ」ではなく「おもてなし」という「コト」=「サービス」であり「体験」である。
そしてディズニーランドで感動と満足を得る。よく言われるように、ディズニーランドぐらいいろいろな体験欲求の満足をさせてくれるサービスはない。敵なしである。
このように「モノ」から「コト」へと言うのは、「コト」に比重が非常に大きくなってきたということである。
【 N:1 「コト」イベント型 課題解決アプローチで実現する最高の満足 図:緑色矢印参照】
さらに、欲求満足のレベルが高い域にある例=L:家族と楽しみたい や n:良いキャリア・良い人生を送りたいのレベルでは 「コト」の提供 対 「満足」の関係がN:1である。
すなわちいくつもの提供要素(「コト」も「モノ」も)がより多く集まって大きな満足が実現される。結婚式+大学の同窓生コミュニティ+FB+旅行パッケージ+美容サロン+ディスニーランドであれば、「幸せな時間」がもたらされるに違いない。
しかし、その分、「複雑な構造の提供、あるいや供給の手配=すなわち結婚式の準備という課題/テーマの解決案策定と実施」をしなければならないのである。
上記の図1は 生活者の視点での議論であるが、企業の社長の視点でいうならば、経営者・社長は、1:Nのレベルを超えて、N:1をマネジメントし満足を得るためのN個の施策を即刻実施しなければならないのである。
この事例としては、ヤマト運輸の課題解決ソリュージョン営業の話が有名である。A地点からB地点にモノを「運ぶ商売」に、物流センターを持つ+在庫を持つ+ICTで追跡システムを整備する+決済サービスを組み込んだ。
このN個のサービス組み合わせが、「早く(24時間以内)に配送してほしい」という顧客の欲求に応えたソリューションである。もちろん、アマゾンという荷主の欲求にも応えているが、主役はお客様である。
<6:まとめ>
「モノ」&「コト」が「欲求」を満たす訴求関係を 図2にまとめてみた。
1)ポカリスエット型(生活必需品型)
「モノ」である生活必需品は、1:1の関係で不満を解消する。 例示:ポカリスエットは喉を潤す
2)iPad型(「モノ」ドリブン型)
「モノ」であるiPadは、1:Nの関係で楽しさを発見させてくれる。 例示:写真、仕事情報、新聞、FBなどできる
3)TDL型(「コト」ドリブン型)
「コト」であるTDLは、1:Nの関係で 体験型アトラクションで 家族の親睦からスリル快感まで 期待に違わぬ楽しさを提供する。
4)結婚式型(課題解決型)
「コト」である各種サービスは、N:1の関係 イベントやテーマを持つ個人の課題をサービス提供で解決しさらに、相乗シナジーを生みだし、極めて高いレベルの欲求を満たすことができる。人を最高に幸せにする。
このように見ると iPad=「モノ」とTDL=「コト」のアプローチは、いくつもの欲求をくすぐる点において共通する。 素晴らしいわけだが あえて言えば、まだ あくまでもiPadワールドであり、あるいはTDLワールドのなかでの最高の満足である。
究極の「コト」社会は、テーマ別課題解決やイベント支援の「個」が主体の世界(ワールド)で、サービス提供されるようになるのであろう。
<7:最後に>先進国の人々は、生活水準向上で必需品についてあまりこだわらず、自己(時々自我や我欲)の目標や欲求に意識が移ってきている。